日本の夏の風物詩、高校野球が真っ盛りだ。舞台は、歴史と伝統の詰まった球児達の「聖地」甲子園。今年は「高校野球100周年」の節目の大会で一層、盛り上がっている。それに先駆け、7月に男子ゴルフの全英オープンも、5年に1度の「聖地」セントアンドリュース・オールドコースで行われた。大雨と台風並みの暴風の影響で、27年ぶりに月曜日が最終ラウンド(R)となる5日間決戦となり、今年も劇的な物語が紡がれた。
高校野球よりも古い世界最古のメジャーは、第144回大会だった。500年以上の歴史を持つ「ゴルフ発祥の地」。1番ティーグラウンドの後ろには、規制の作成や用具審査などを行う「ゴルフの世界的総本山」R&Aのクラブハウスがそびえ立つ。17番の右手にはオールドコースホテルがせり出し、18番グリーン右手には「トム・モリスショップ」などクラシックな建物が立ち並ぶ。ゴルファーなら、誰もが憧れる趣深いコース。初訪問の記者も心を躍らせながら、取材に当たった。
出場するプロにとっても、やはり特別な舞台だった。聖地での全英初出場となった松山英樹(23)=LEXUS=は大会前「1、2、17、18番は雰囲気がすごくあると思う」と話した。幼少時にテレビで見て憧れた夢舞台だ。第2Rに同コースでの日本人歴代ベストスコア66をマークすると「素直にうれしいですね」と、笑顔で喜びをかみしめた。
昨季の日本ツアー賞金王・小田孔明(37)=プレナス=は、人一倍強い思い入れを持っていた。ゴルフ漫画「あした天気になあれ」を子供の頃に愛読し、ゴルフを始めた。主人公の向太陽が、セントアンドリュースでの全英オープンで快進撃を繰り広げる物語だ。孔明は10年に聖地での全英に初出場。「あの時は、練習ラウンド中に18番の(スウィルカン)橋の上で感極まって、涙しちゃって」と苦笑いで振り返った。賞金王となり、5年ぶりの聖地巡礼に「今回は泣かなかったけど、ここはやっぱいいっすよねぇ~」と丸い顔をほころばせた。
世界的なレジェンド達も、聖地での節目を選んだ。大会歴代2位の5勝を誇るトム・ワトソン(65)=米国=と87、90、92年大会覇者のニック・ファルド(58)=英国=が今大会限りで、“全英引退”を表明した。ともに予選落ちとなったが第2Rの18番の橋に立つと、詰めかけた観客は功績をたたえて総立ちで温かい拍手を送った。ワトソンは「聖地で幸せを感じた」。ファルドも「特別な瞬間。生涯忘れることはないだろう」と右手を振って大声援に応えていた。
「あるがまま」の自然が大前提とされ、普段は一般市民にも開放される北海に面したリンクスコース。午後10時頃まで明るく一日中、コース上を大きなカモメが自由に飛び交い、鳴き声が響く。「一日の中に四季がある」と言われる通り、海風が強く、天候と寒暖の変化は本当に激しかった。
アマチュア野球担当時代に、春夏6度の甲子園での高校野球取材を経験した。「浜風」が吹き荒れ、春の寒さや夏の暑さといった天候も筋書きのないドラマを演出する。それを言い訳にはせず、受け入れて懸命にベストを尽くす選手達。やはり「聖地」と呼ばれる場所には人々を引きつける雰囲気、厳しさと魅力が詰まっているな、と強く思った。
◇榎本 友一(えのもと・ともかず)
東京都生まれ。中大卒業後、サンケイスポーツ文化報道部を経て2003年に報知新聞社入社。箱根駅伝担当、北京五輪担当などを経て13年からゴルフ担当。男子ツアー初取材だった同年つるやオープンでは、尾崎将司のエージシュート&松山英樹のプロ初Vを目撃する強運男。