男子ツアー開幕戦の東建ホームメイトカップで、思わずもらい泣きしそうになるほど感動的な場面に遭遇した。最終日、64の猛チャージで5位に食い込んだ宮本勝昌は「去年から付いてくれたハウスキャディーさんに助けられました。グリーンの読みが上手で、迷ったときは彼女の言うことを聞いていたんですよ」と満面の笑み。早速そのハウスキャディーを探して「すいません、新聞社の者ですが、宮本さんが…」と事情を説明すると、彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「去年かつがせてもらった時に悔しい思いをしたので、今年こそ稼いで欲しいと思ってラウンドやパターの練習をしていたんです」
彼女はキャディー歴5年の下里麻由さん(30)。3月からは通常のキャディー業務が終わった後、連日のように日没までラウンドしながらコースの特徴を頭にたたき込んだ。特にグリーンは細かな傾斜やボールの切れ方まで、実際にパター練習をしながら徹底チェック。「どこから聞かれても答えられるようにしたかったんです。私のラウンドには先輩が付き合ってくれて、本当にありがたかったですね」
実は、全てが無駄になるかもしれないことを承知の上での努力だった。下里さんは宮本と今大会での担当を約束したわけではない。もし宮本がプロキャディーを帯同してきたら、下里さんの出番はなかった。だが、思いが通じ宮本はハウスキャディーを依頼した。すぐさま下里さんは「宮本担当」に立候補して2年連続のコンビが実現した。
取材が終わった後、下里さんの努力を宮本に説明すると「本当にすごかったんですよ。彼女のおかげです」と喜んでくれた。その後、宮本にハグされた下里さんは再び号泣。華やかな優勝争い以外にも、選手の数だけドラマがある。(岩崎 敦)
◇岩崎 敦(いわさき・あつし)
千葉県生まれ。早大卒業後、94年に報知新聞社入社。内勤のレイアウト担当、サッカー担当などを経てゴルフ担当は2000~02年、07~10年、15年~の3回。マスターズなど米ツアーは20試合以上取材しているが、一度もタイガー・ウッズの優勝を見たことがない。