松山の連覇はならなかった。5打差を追った最終日、13番からの3連続バーディーで首位に1打差と迫ったのがヤマ場となった。16番パー3のティーショットを左池に入れるダブルボギーで2連覇の夢は散った。
「勝負していた。しょうがない。めいっぱいやったからまた次にかけるしかない」まさにそのとおりだ。初日8アンダーの単独首位。だが、その後は伸びず逃したバーディーを悔しがるラウンドがつづいてしまった。2日目以降の5番手に“定着”するのが運命だったのだろう。
優勝は無名のスウェーデン人、デビッド・リングマース。欧州ツアーの賞金王にもなったジャスティン・ローズを3ホールに及ぶサドンデスプレーオフで下した。スウェーデンといえばアニカ・ソレンスタム、男子は今大会を06年に勝ったカール・ピーターソン、古くはジャスパー・パーネビック。 今の韓国と並んで、ゴルフを経済発展、国威発揚の国策としているかのような“おいしいところだけ持っていく”国だ。いや、もうやっかみだけで言っている。ゴルフ界の発展に何も尽くさず賞金だけはしっかり持っていく、とゴルフ界では誰知らぬ者のいない、ブラックジョーク、いや、“やっかみジョーク”だ。
リングマース選手がニクラウスと並んで去年、松山が手にしたカップを持っているのを目にすると、松山があと少しで2年連続を逃したことが、いかにも悔しく、取り返しのつかないミスをしたような苦い思いが広がるのだ。 松山には「こんなこともあるよな」というしかない。他人がこれだけの心情にさいなまれるのだから彼の心中は煮えたぎっているのではないか、と同情ばかりが頭をもたげる。
人生いろいろタイガーそしてケニー・ペリーの人生
今年も盛りだくさんのメモリアルトーナメント。だが、今年ほど中身の濃い人生模様を繰り広げたことはなかったのではないか。ほろ苦い松山の敗戦、プレーオフ負けのローズ、最終日7アンダーで追い上げたアメリカの21歳、ジョーダン・スピース。だが、タイガーの胸中を思えばほろ苦さに感謝したくなる。
最終日、タイガーは一人、トップスタートし85のラウンドを余儀なくされた。調子が出ず予選は通ったものの3日目を終え、最下位へ。予選通過者が奇数のため1人ラウンドとなった。ゴルフ競技では一人になった場合、マーカーをつけ、トップアマや役員がプレーしながら付き添うが普通。だが、今回、タイガーはたった一人、そのラウンドに1000人を超えるギャラリーが付いたというからなにか物悲しかった。「孤独だった」とタイガーは試合後、洩らした。大ギャラリーを引き連れていながら孤独なラウンド。思うにならないゴルフ、引退もささやかれる不振。厳しい現実をひしひしと感じながらのラウンドは“針のむしろ”だったのではないか。タフな男ゆえにその強靭さを試される。天の投げかける試練を感じざるを得ない。「タイガー、がんばれ」と叫ぶ。
ケニー・ペリーという54歳のベテランがいる。いや、予選落ちした男だ。週末は会場にいなかった彼もまたほろ苦くあった一人だ。“ほろ苦くある”―ボールはあるがままを打つのがゴルフだが、ペリーは人生、あるがままを貫きこんな幕引きをした。
今大会25試合目出場のペリーだった。1大会の出場が25回、その長いキャリアに驚かされる。PGAツアー14勝、そのうち11勝が40才以降、驚異のベテランだ。40才以降に活躍するアラフォーが話題だが、生ぬるい。ペニーは“アラウンドフィフティ”、50歳以降もなおレギュラーツアーにこだわるとんでもない男だ。50歳を超えチャンピオンツアーの常連だが、彼にはこだわりがある。生涯現役、「できるだけレギュラーツアーで活躍したい」。だから今季もこれが10戦目、チャンピオンツアーは半分の5試合しか出ていない。
しかし、今回予選落ちしその歴史に幕を閉めた。「もう疲れた。早起きするのに飽きた。初シードが26歳。子供のころから不器用で何をやっても人より時間がかかった。努力すれば成功があるとやってきたが、その自信がなくなった。これでグッバイだ」記者会見には100人を越える記者。「今の気持ち?悲しさはないよ」大きな拍手がいつまでもその背に送られ続けたという。
2年目を迎えた松山のPGAツアー。開幕戦3位、マスターズ5位、そしてまた5位。頂点を常に仰ぐ好位置をキープして充実。戦いは始まったばかりだ。