ホールインワンそしてメジャー優勝 カナダの18歳、ブルック・ヘンダーソンの華麗なゴルフ人生 武藤のコラム


 大番狂わせの女子メジャーだった。今季2戦目の「全米女子プロ選手権」はカナダのブルック・ヘンダーソンが優勝した。世界ランク首位、19歳のリディア・コ(ニュージーランド)を2打差で追った最終日、18歳のヘンダーソンは65のベストスコア、通算6アンダーで首位に並ぶとサドンデスプレーオフの1ホール目、バーディーを決めて勝った。14歳で全米女子アマ2位など早くから頭角を現したヘンダーソンは2014年プロ入り、2015年には17歳で米ツアーに初優勝。全米女子プロと同オープンは5位と着実に力を発揮。今季は2位をはじめとして、10戦でトップ10入りと好調なシーズンを迎えていた。カナダ人の優勝は1968年のサンドラ・ポスト以来。

 予選ラウンドは宮里藍、野村敏京の新旧日本のエースとの同組ラウンド。その第1ラウンド13番でホールインワンをやってのけた。154ヤードを7アイアンで放り込み藍ちゃんと祝福のハイタッチ。500万円相当の乗用車をゲットすると、車は姉へプレゼントと気前のいいところを見せた。そして最終日は伝統のメジャーのタイトルを引き寄せた。歯切れのいいプレーぶりは誰よりもけれんみがなかった。強風、硬いグリーンの3日間。上位陣が我慢を決め込む中、ひとり低いドローボールで積極的に攻めた。最終日、夜来の雨がグリーンを湿らせるとピンの根元を誰よりも多く襲った。ボールが止まり、バーディーチャンスが増え、11番でイーグルもでた。6アンダーで優勝戦線を自信満々行く、世界ランクトップのコに追いつくとプレーオフで息もつかせず葬り去った。鮮やかな大逆転。予想外のドラマチックな幕切れだった。

 

 韓国勢の圧勝という筋書き。2015年最後のメジャー「エビアンマスターズ」2016年最初のメジャー「ANAインスピレーション・チャンピオンシップ」と連勝、メジャー3連勝をかけたリディア・コの優勝は目前だった。3歳のとき生まれ故郷の韓国からニュージーランドに移住したコだけではない。その強さは今大会3年連続優勝のかかったインビー朴も大会前から話題、誰が見ても韓国勢の大会だった。だが、ヘンダーソンの存在はそんな空気に新風を吹き込んで新鮮。一人のびのびと戦った。インビー朴は予選落ち、そして最後の土壇場でコも力尽きた。自分を信じ可能性にかけた大胆さで上回った。トップ10に韓国勢は5人がひしめき、まさに韓国オープンの様相。そんな中、「ゴー、カナダ!」アメリカ大陸と接するもう一方の雄・カナダからは熱狂的な応援団も駆けつけて熱い声援。そう、カナダはアメリカよりもいち早くゴルフを受け入れたアメリカ大陸、ゴルフ発祥の地だ。勝負所は心得ていたというわけだ。

 「伝統のカップに私の名前が刻まれるのよ、とってもクールだわ」インタビュールームでは興奮をそのまま持ち込んで喜びに酔いしれた。「去年(2015)のポートランドクラシックでツアー初優勝した時よりうれしい」17歳と11か月と6日で勝った初優勝は2位に8打差のぶっちぎり。それもすでに彼女の中では過去となったのだ。それはそうだ。驚異の19歳が若いリーダーをうちやぶったのだ。

 “我らが樋口久子”が今大会のタイトルを取ったのが1977年6月12日、サウスカロライナ州のベイツリー・プランテーションコース。その時世界のチャコは一人9アンダー。2位のブラッドリーとランキン(以上米)、そしてカナダのポストに2打差の圧勝だった。当時の興奮がよみがえった。ヘンダーソンのおかげでいい思いができた。

 
武藤 一彦(むとう・かずひこ)
ゴルフジャーナリスト。コラムニスト、テレビ解説者。報知新聞には1964年入社、運動部に所属、東京オリンピックはじめボクシング、ゴルフ、陸上担当。編集委員、専属評論家も務めた、入社以来50年、原稿掲載の”記録”を現在、更新中。
日本ゴルフ協会広報参与、日本プロゴルフ協会理事を経て日本プロゴルフ殿堂表彰選考委員、日本ゴルフ振興協会広報メディア委員、夏泊ゴルフリンクス理事を務める。

ゴルフは4メジャーのほか、ワールドカップなど取材、全英オープンは1975年から取材し日本人記者のパイオニア的存在。青木功のハワイアンオープン優勝にも立ち会った。1939年生まれ。東京都出身、立大出。

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