タイガーのいる風景はやはり良いものだ。 武藤一彦のコラム


 タイガー・ウッズの1年ぶりの復帰戦、米男子ツアー「ファーマーズ・インシュランス・オープン」はカリフォルニア州サンディエゴのトーリーパインズゴルフコースで行われ、タイガーは23位と復活に向け好スタートを切った。
 単独の大会としては自己最高の7勝を挙げるなど得意の大会は、故障に見舞われ昨年は予選落ち、一昨年は途中棄権と不安材料いっぱい。しかし、予選を1アンダー65位と実に15年8月以来、888日ぶり決勝ラウンドへ進出。決勝ラウンドの最終日には松山英樹と同組で回り4日間通算、3アンダー。タイガーがツアーで順位をつけたのは15年の「ウインダム選手権」以来だった。
 優勝争いは3人プレーオフの5ホールを終わってジェイソン・デイ(豪州)とアレックス・ソーレン(スウェーデン)がタイとなったところで日没順延となった。

 

 世界ランク5位の松山とタイガーの同組対戦はタイガーの現在の潜在能力を引き出して迫力があった。タイガーは4バーディー、4ボギーの72と、試合勘のなさを露呈しながら、アプローチ、特にパットのうまさで対抗。狙った獲物を逃さない勝負どころの強さ、冴えを随所に見せた。

 

 スイングは明らかに好転していた。腰、ひざへの負担を軽減するためフェードを多用した。全体にスイングは抑え気味。むしろ気合を入れることをせず4日間トータルで自分のスイングを確かめる、そんな配慮に復活にかける心の内がのぞいた。インパクトに上下動を入れる不調時の欠点が指摘されたが、体調、気力が戻れば往年のスイングに戻るだろう。戦うトラはいまだツメをひた隠し。勝負はもう少しあと。そんな空気がピリピリと伝わった。

 

 「球を打ち、寄せて、入れる。原点に戻ってやっている。長いことツアーのリズムでゴルフをやっていないしどんなゴルフになるのか予測ができないんだ」予選通過後に悩みを吐露したが、正直なところに好感がもてる。「優勝スコアを予測するのは得意だが、だれが勝つかと言われても今の若い選手たちは半分以上知らないのだから、何もいえない」42歳が経験不足を口にして異常事態が手に取るように受け取れ、困った顔に本気が見えるのもいい。

 

 タイガーのいる景色はいいものだ。トーナメントがピリッとしまった。この10年なかった景色がいまもどってきた。
 この日一緒に回った松山とは今回で3回目のラウンドだ。だが、世界ランク5位と300位以下では“格付け”が逆転した点は否めず、時代は明らかに変わったように感じる。それはショットに苦しみながらも4バーディー、1ボギーの69、前日の44位から一気に12位に上がった松山の勢いなのだ。対してタイガーは4バーディーをうばったものの4ボギーだった。だが、長いブランクがタイガーらしさをそぎ取って出たボギーなら、試合に出てボギーを出さなければ解決できる。体調が戻ったタイガーならそんなことは簡単にできる。この日言っている。
 「試合にならないと見えないものがゴルフにはたくさんあるものだ。アドレスはコースの見え方でかわる、グリーンのリーディング(読み)もそうだ、気持ちよくラウンドできる環境を自分で作らないといけない」
 ラッキーも技術のうち、いいプレーを続け幸運を呼び込むことも勝者の条件というタイガーだ。PGAツアー79勝にさらなる勝ち星が加わるのは時間の問題とみる。

 

武藤 一彦(むとう・かずひこ)
ゴルフジャーナリスト。コラムニスト、テレビ解説者。報知新聞には1964年入社、運動部に所属、東京オリンピックはじめボクシング、ゴルフ、陸上担当。編集委員、専属評論家も務めた、入社以来50年、原稿掲載の”記録”を現在、更新中。
日本ゴルフ協会広報参与、日本プロゴルフ協会理事を経て日本プロゴルフ殿堂表彰選考委員、日本ゴルフ振興協会広報メディア委員、夏泊ゴルフリンクス理事を務める。

ゴルフは4メジャーのほか、ワールドカップなど取材、全英オープンは1975年から取材し日本人記者のパイオニア的存在。青木功のハワイアンオープン優勝にも立ち会った。1939年生まれ。東京都出身、立大出。

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