チャンピオンズツアー最強ゴルファー ランガーを襲った不幸な出来事 武藤のコラム -ランガーは立ち直ることができるか-


 往年の名プレーヤーが繰り広げるシニアの「チャンピオンズツアー」。その最強プレーヤー、ベルンハルト・ランガーが大ピンチに陥った。16日、フロリダで行われたシーズン第3戦「ジ・エース・クラシック」の最終日を、首位から5打差の5位で迎え、大会最多の3回目の優勝を期待されたランガーだったが、スタート2時間前に試合を放棄した。これまで数々の試練を克服したランガーだが、今回は予想だにしなかった不運。ランガーは大丈夫だろうか。

 家庭に不幸が見舞っていた。昨年来、背中の痛みを訴えていた娘のクリスティーナさんの様態が悪化、急きょ、手術を受けることになったのだ。クリスティーナさんは昨年10月から痛みを抱え治療していたが、ランガーが遠征に出たあとの診断で手術が決まった。ランガーはそのことを土曜日のホールアウト後に聞くと、病状は予断を許さなかった。最終日を迎える前夜は全国の病院に電話をかけ最高の施術を受けようとつとめた。そして、スタート前、車で自宅へ向かった。幸い自宅は同じフロリダ半島で4時間余の距離にあった。

 クリスティーナさんはヴィッキー夫人との間にできた2男2女の3番目、22歳。ゴルフの腕前はなかなかのもので試合ではときどきキャディーをつとめ、昨年5勝を挙げ賞金王となったランガーをサポートした。ランガーはマスターズに2勝を挙げたドイツ人初のトッププロゴルファー。遠征中のアメリカでフロリダ出身の夫人と結婚、以来ドイツとアメリカの家を行き来しながら欧米ツアーで活躍。50歳になってからはシニアツアーに参戦、2007年から8年連続で毎シーズン優勝、昨シーズンは3年連続6回目の賞金王を飾った。シニアツアーは体力の衰えとの闘いといわれる中、6度もの賞金王は今後、破ることのできない記録といわれる。中でも57歳の昨年の5勝、獲得賞金307万ドル(約3億円)はシニアツアーの年間獲得最高額だ。史上最強のプレーヤーといわれるゆえんだ。

 チェコスロバキア難民の父親に手を引かれドイツに移住、15歳でプロとなった。欧州ツアー58勝。輝かしい戦績。だが、ゴルフではパットのイップスにさいなまれた。ロングシャフトで活路を見出したが、ゴルフ界は2016年をもって「体の一部を起点にしたパッティング」いわゆる“アンカリングショット”の禁止を決めた。「このルール変更で一番困っているのはだれか」と聞かれれば、ゴルフ通なら「ランガーはたいへんだね」と大部分が皮肉交じりで笑うだろう。ゴルファーは他人の“小さな不幸”を喜ぶ。ランガーがどうルール変更に対処してくるか、は多くの人の注目なのだ。

 そんな矢先の末娘の先の見えない病状。常に家族を最優先してきたランガーだから、ゴルフのことを排除して完全治癒まで取り組むだろう。「ジ・エース・クラシック」では第1日71と出遅れたランガーは第2日にベストスコア66をだし通算11アンダーと追い上げ、首位に5打差の5位、優勝を見据えていた。娘さんの病状が軽からんことを祈り、合わせてランガーの1日も早い復帰を祈るのみである。

武藤 一彦(むとう・かずひこ)
ゴルフジャーナリスト。コラムニスト、テレビ解説者。報知新聞には1964年入社、運動部に所属、東京オリンピックはじめボクシング、ゴルフ、陸上担当。編集委員、専属評論家も務めた、入社以来50年、原稿掲載の”記録”を現在、更新中。
日本ゴルフ協会広報参与、日本プロゴルフ協会理事を経て日本プロゴルフ殿堂表彰選考委員、日本ゴルフ振興協会広報メディア委員、夏泊ゴルフリンクス理事を務める。

ゴルフは4メジャーのほか、ワールドカップなど取材、全英オープンは1975年から取材し日本人記者のパイオニア的存在。青木功のハワイアンオープン優勝にも立ち会った。1939年生まれ。東京都出身、立大出。

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