マスターズの第1ラウンドは、売出し中の21歳、アメリカのジョーダン・スピースが8アンダー64で首位発進した。アウトとインで、3連続バーディーをそれぞれ1回ずつマークしたあと、15番の“サービスロング”をボギーとしたが。バーディーが5個しかマークされなかった最難18番で6つ目を記録した勝負強さはリーダーにふさわしい内容だ。
3年前19歳でデビュー、世界ランキング300位代だったが、昨年勝ち今季2勝目を挙げ、直前の「シェル・ヒューストン・オープン」2位といい感じでオーガスタ入りした。 マスターズは昨年初出場で2位。テキサス・ダラス生まれ、といえばベン・ホーガン、鉄人と言われた伝説の男の後輩だ。長身痩躯、グレーのパンツに水色のウエア、だれもが全身広告塔のごとくスポンサー名をちりばめるなか、ウエアに一つ、キャップのかたすみにひとつ、メーカー名が見えるだけの清楚さ(男にいう言葉ではないが)がいい。マスターズの関係者もよろこんでいるはずだ。
私個人としては低いストレートボールを基本に高低、左右に打ち分けるヤング・テキサン(若いテキサス人)の男っぽいゴルフが好きでデビューから注目していた。昨年は日本の「ダンロップフェニックス」に参戦した“ジョーダンを見よう”と宮崎へ出発する直前に家庭の事情で見にいけず、こんなこともあろうかとおもっていたら、予感は当たった。会っていれば励ましの言葉の一つもかけるのがゴルフジャーナリストというものだ。インタビュールームは公式の場だが、ちょっとした空気の隙間みたいなものができると、個人的な交流ができる場でもある。
タイガーはおびえる虎、松山は寝起きの悪いイノシシ
松山は1アンダー、タイガーは1オーバーだった。ゴルフの祭典といわれるマスターズだが、お祭り気分になれない二人だ。タイガーはおびえる虎、松山は寝起きの悪いイノシシみたいだ。ともに未調整のままオーガスタ入りしている。
タイガーが1月末の「フェニックスオープン」で5か月半ぶりにツアー復帰も予選落ち、その翌週の「ファーマーズインシュアランス」の第1ラウンド途中で棄権した。腰痛が悪化したものだが、技術的にはアプローチのフィーリングが全くおかしく、30ヤードからざっくりや、ホームランを連発する姿に世界中が声を呑んだ。その後、マスターズが近づくと米の専門家の間には「タイガーのアプローチ・イップス」と禁句であるイップス病の声が上がった。マスターズも出場が危ぶまれたが、どうにか間に合あった。しかし、イップスであれば試合になって見ないとわからない。技術より感覚の狂いは直しにくいからだ。
この日のタイガーからは最終日のような緊張感が痛いほど伝わった。12番パー3で池に入れボギー、15番はドライバーを右林とミスを連発した。タイガーですら“感覚のずれ”に襲われるとそれまでの経験や技術が皆無となる。いや、培ったものがトラウマとなってまるで別の生き物と化し、ショットに悪影響を及ぼす。それがイップスだ。何度も唇をなめるタイガー。イップスとの闘いはいま始まったばかりだ。
松山もまたマスターズに向けて順調ではなかった。第14戦の「ノーザン・トラスト・オープン」で5位、今年に入って10戦で3回トップ5入りの快進撃を見せた。だが、その翌週のビッグイベント「ホンダクラシック」を大会直前に欠場した。以来、松山の姿はツアーで見られなくなった。実に6週間、2月末から4月第1週まで7試合ものブランクだった。左手親指付け根の故障の後遺症が根強くとりつくのだ。適度の練習と休養が今後の競技生活を支える重要、かつ不可欠のテーマとなった。
松山は2月末、いったん日本に帰った。心身共にリフレッシュできたが、試合勘のなさが悩みだ。
4番で7メートルのバーディー、5番を3パット、6番6メートルのフックラインを入れた。9番では1メートル半につけるバーディー。13番パー5は左バンカーから“オーケー”に寄せるスーパーバンカーショットでバーディーとスコアを3アンダーと伸ばした。ブランクを感じさせないたくましさだ。だが、15番でバーディーは取れなかった。17,18番でショットを乱すと上がり2ホールをボギーとなった。ゴルフはわかってからが難しい。「いける」と攻めてからスコアを崩した怪物・松山だった。
心の痛みと体の痛み。2匹の怪物の残り3日間に注目だ。