男子ゴルフ海外メジャー初戦のマスターズは、毎年4月の第2日曜日を最終日に米ジョージア州のオーガスタナショナルGCで行われる。男子では毎年、同じコースで開催する唯一のメジャーだ。そのため、初めて取材に訪れると独特に感じることがいくつかあった。
まず、世界中の新聞、雑誌や通信社などの関係者が集う「プレスビル」が特別だった。全米オープン、全英オープン、全米プロと他の3つのメジャーはコースが毎年変わることもあり、ほとんどの場合、大きな仮設テント内に設けられる。だが、マスターズのプレスビルは常設の建物。しかも1番ティーや練習場、クラブハウス前の取材エリアなどに隣接しており、最高と言える立地だった。
プレスビル1階の記者室は、約400人収容の大学の大講堂のようなすり鉢状のホールだ。正面には中継が映る大型の電光掲示板。各自の席にはタッチパネル式のモニターも完備され、各選手のラウンドデータなどを瞬時に知ることもできた。公式会見場はプレスビルの入り口のすぐ右手にあった。ひな壇の前にはコースと同様、鮮やかな鉢植えの花が置かれ、華やかさを演出していた。
記者室の後方には無料のプレス専用食堂があった。ハンバーガーを中心にバイキング形式で朝、昼とそれぞれの仕事のタイミングで自由に食事が取れる。本当にありがたい。時差ぼけで、米国独特の強い日差しに照らされ、真っ黒に日焼けしながら、締め切りに追われる記者にとって、つかの間の癒やしの一時だ。
コース内で販売されているポテトチップス、ポップコーン、サンドイッチ、水、コーヒーなども陳列されている。中身はさほど特別なものではないのだが「MASTERS」と書かれた袋やラベルが貼られているだけで、ありがたく感じてしまう。やはり“限定品”やブランド品に弱い日本人気質なのだろうか(笑)。
また現地訪問前、先輩記者から口酸っぱく注意されたマスターズ独特のルールもある。「パトロン」と呼ばれる観客も報道陣も、コース内での携帯電話の使用と持ち込みが禁止なのだ。選手のプレーへの影響を懸念してのもの。観客は駐車場で車に携帯を置いてコース入りし、ボディーチェックを受けて入場。報道陣は記者室では自由に使えるが、コースに入る時は持ち込みNG。もし見つかれば即刻没収され、強制退去させられる。過去、強制退去させられた日本人記者もいたと聞く。
オーガスタのコース内には、6か所公衆電話が設置されている。大会前、日本人唯一の出場となった松山英樹(23)=LEXUS=の練習ラウンドに同行した際、何番のどこにあるのかを確認しながら歩いた。日本時間との時差があり、大会が始まれば松山組について歩き、数ホールごとに日本の会社へ電話。締め切り時間に合わせて、プレーの内容などを伝えなければならないからだ。
いざ大会が始まり、公衆電話へ向かうと、予想以上に大勢の観客が並んでいた。一体、誰にどんな電話をしているのかと思えば「I LOVE YOU ♡ HONEY」と白人のイケメンの甘い声も聞こえてきた。コース内に電光掲示のリーダーボードはない。手動の掲示板のみで、瞬時に順位を正確に知ることはできない。観客はそんなことはお構いなしで、目の前の選手のプレーに声援を送る。「ここでは純粋にゴルフ観戦を楽しもうよ」―。そう言われているような独特な印象を強く受けた。(榎本 友一)
◇榎本 友一(えのもと・ともかず)
東京都生まれ。中大卒業後、サンケイスポーツ文化報道部を経て2003年に報知新聞社入社。箱根駅伝担当、北京五輪担当などを経て13年からゴルフ担当。男子ツアー初取材だった同年つるやオープンでは、尾崎将司のエージシュート&松山英樹のプロ初Vを目撃する強運男。