15年メジャー第1戦のマスターズトーナメントは21歳のジョーダン・スピースが首位を終始走る完全優勝をやってのけた。4打差2位にミケルソン、ローズ、6打差4位はマキロイ、そして松山英樹は66のベストスコアタイ、ノーボギーと会心のゴルフで11アンダー、単独の5位に食い込んだ。
スピースの独走に見えるが、史上まれにみる中身の濃いマスターズだった。スピースは3年前、19歳でツアー初優勝、プレジデンツカップ、ライダーカップの米代表と一気にトッププロへ。昨年のマスターズは2位、今年は直前のテキサスオープン優勝で一気に株を上昇させていた。新人が逃げ、ミケルソン、ローズのベテランにマキロイ、松山が迫った。すごい争いだった。
松山にはホールアウト後、悔しさがにじんだ。マキロイと並ぶ66のベストスコアにも喜びはなし。「パットがきょうは入った。こういうプレーをし、もっとチャンスを広げるように練習していかないといけないと思いました」と硬く唇を結んだ。
難関ホールの10,11番バーディー、13番でイーグル、プレッシャーの極を迎えた最終18番バーディーと最終日のイン31は、トップ5を占めた誰よりもいいゴルフをした。通常の大会なら大逆転優勝もあっておかしくないスコアだった。追いつけなかった悔しいもたつきが惜しまれる。
松山もまたプロ3年目だ。口には出さないが、スピースへのライバル心がエネルギーだ。同じ流れを泳げばいやでも目に触れる二人の争いは、昨年の準メジャーの「メモリアル」で松山が優勝し一歩ぬけだし、今季スピースが1勝をあげリードしたように見えるが、松山はトップ5入り5回。大会直前のボールストライキングは実にランク3番目。ドライバーの飛距離、フェアウエーキープ率、そしてグリーンオン率で絶対の自信をもって臨んだマスターズだったのだ。
残念ながら今回ついた差。その分析は必要だろう。
スピースは09,11年の世界ジュニアで2勝とタイガーと並ぶ金字塔を打ち立てたが、今回21歳8か月のマスターズ優勝。史上2番目、タイガーに次ぐ記録である。もはや時代はジュニアの戦歴がメジャーに直結している。優勝と5位の21歳と23歳,片や大学中退しプロ、一方は大学時代にアジア予選を2年連続突破してのマスターズ出場。今回同じ土俵で競り合った2人である。だが、あえて言うならマスターズへの思い入れはスピースだ、身近にいたタイガー、ミケルソン。そしてマスターズを支える土壌、そう、思い入れの差だろう。
今回をもって火花の散るライバルとして長い戦いがついに始まった。ちなみにスピースのよく入ったパターは、名器、09年のスコッティー・キャメロン。15歳から使い続けている。21歳はパター同様、すでに年季のはいった筋金入りだといいたい。
44歳のミケルソンは昨シーズン11年ぶり未勝利に終わったが、昨年の全米プロで19歳下のマキロイに1打差で敗れ、今回また23歳下のスピースに阻まれた。だが、タイガーの復活とともにその存在感はすばらしい。6月の全米オープンを制すれば史上6人目の生涯グランドスラム達成。今回マキロイが逃した偉業を一足先に達成するチャンス、楽しみだ。
そのミケルソンは13年全米オープン、あと一歩で勝つところまで迫ったが、それを阻んだのが、今回2位のローズだった。94年全英オープンに17歳のアマで4位。その翌日プロ入りも予選落ちの連続で欧州ツアーのシード権すら失う長期スランプ、地獄をのぞいた。ようやく欧州で勝ったのが02年、PGAツアーは10年のメモリアルで以来6勝。松山には越えねばならない嫌な相手だが、ここでは華やかなアマの戦歴の後、今は厳しい試練を迎える石川遼にエールを送る格好のプレーヤーでもある。耐え忍び奥義を見つけ夢を果たしてほしい。
大会2日目「ジェントル・ベン」が引退した。84,95年マスターズチャンピオン、73年プロ入りの「テキサスオープン」でプロ入り直後のデビュー戦で優勝した。そう、ユニバティー・オブ・テキサス、テキサス大の出身。といえば今大会チャンピオン、スピースの大先輩だ。テキサスは鉄人ベン・ホーガンら数々の名選手を生みマスターズはスピースで7人目のチャンピオンとなる。テキサス大は全米オープンのトム・カイト、全英オープンのジャスティン・レナードとメジャー優勝者を生んだ。クレンショーもまたその名門を支えた。ツアー19勝。マスターズは44回出場の英雄であった。故郷もまたスピースを暖かく、厳しく支えた。孤軍奮闘する松山の前途を日本はどう応援できるのか、と考え込む。