同じ長さのアイアンでゴルフを変える全米アマチャンピオン、ディシャンボーの挑戦に注目 武藤のコラム


 欧州ツアーの「アブダビHSBCチャンピオンシップ」2月24日、アラブ首長国連邦で最終日を行いリッキー・ファウラー(米)が欧州賞金王のローリー・マキロイ、アメリカから一緒に遠征したジョーダン・スピースを破り優勝した。この時期、世界ランクトップ5が、中東に集結したのも初めて、ファウラーがマキロイ、スピースの世界1,2位をまとめてねじふせたのは驚き。オリンピックイヤーは波乱含みのゴルフ界だ。そんな大会、もう一つ目を引いたのは一人のアマチュア選手、ブライソン・デシャンボー(米)の存在。とてつもないゴルフの実践と取り組みには目を見張る。

 日本では知る人ぞ知るディシャンボー。そのキャリアを見ると世界の注目度がわかろうというものだ。今回のアブダビの欧州ツアーにはファウラーらとともに招待選手という厚遇を受け出場した。しかし、なじみのない選手になんで、というなかれ。知らぬは日本ばかりなりだ。

 2015年の全米学生ナンバーワンにして全米アマチュア選手権チャンピオンである。学生とアマの2大タイトルを一手にする。ゴルフ王国アメリカでこの両タイトルを取ったのは過去ニクラウス、ミケルソン,タイガーウッズ、ライアン・ムーア、そしてディシャンボーの5人だけである。

 カリフォルニア州サザンメソジスト大4年の昨年、全米アマに勝ち2016年のマスターズ出場資格を持つ。しかし、それだけの実力者とあってプロ入りもささやかれマスターズを待たず転向するだろう、と見る人は多い。今回の招待出場でアピアランスマネーが発生、すわプロ入りと周辺は騒然となったようだが、第1ラウンドを64でトップに立ちアマ優勝かと期待を持たせたが、54位。だが、賞金は手にしなかった。「今はプロを目指した研修の身」と公言するがマスターズで箔(はく)をつけてからプロ入りという”計算“か。

 だが、そんなことで騒がれるだけの選手ではない。そのゴルフの実践を見て驚いてはいけない。個性的なクラブセッティングで知られる。

 アイアン10本はすべて長さ37・5インチのバランスD2。そう、4アイアンから10番までと3本のウエッジまですべておなじ長さだ。高校時代にクラブメーカーのショットマシーンを見ていてヒントをつかむと6アイアンの長さにアイアンすべてを統一した。だからバッグを見ると他人と明らかに違う。ドライバーは43インチと短め。これにスプーンとユーティリティーの3本がそそり立っている。アイアンはすべて、ソールを上にして同じ高さに並んで姿はまるでゴルショップのばら売りコーナー、同じ長さのクラをバックにそろえて売るあの感じだ。

 「長さ,ライ角、バンスをすべて同じにし、ロフトだけを変える。長さも含めアイアンの性能を変えていると遠くに立ったり近くに立ったりしなければならないが、6アイアンに統一すれば6アイアンと同じ感覚ですべてのアイアンが打てる」

 高校2年の時に地元のジュニアチャンピオン。その直後に試行錯誤しながら、いまの37・5インチにそろえた。「10本を同じ長さなら練習は1本だけで済むじゃないか。事実、それまでより練習時間が短くなった」という。スイングはアップライト。ウエッジも6アイアンの長さだから6アイアンのスイングだ。

 ディシャンボー、185センチの長身なので“飛びすぎ”が心配になるが、ロフトが高さを決めてくれるから距離も合う。のびのびとフルスイング。理論の実証に懸命だ。実践は難しそうだが、クラブは太いグリップにするなど工夫している。

 アメリカでは以前、女子プロが同じことをやるとロフトの違いで5ヤード刻みの飛距離が的確に打てたと評判になった、と聞いたことがある。が、その後、成否は定かではない。ともあれ、ディシャンボー、アマ2大タイトルを取った、そして欧州デビューを初日64で首位と着実に“マイ理論”を裏付けた。できれば4月のマスターズには今のままで出場してほしいなあ。

 

武藤 一彦(むとう・かずひこ)
ゴルフジャーナリスト。コラムニスト、テレビ解説者。報知新聞には1964年入社、運動部に所属、東京オリンピックはじめボクシング、ゴルフ、陸上担当。編集委員、専属評論家も務めた、入社以来50年、原稿掲載の”記録”を現在、更新中。
日本ゴルフ協会広報参与、日本プロゴルフ協会理事を経て日本プロゴルフ殿堂表彰選考委員、日本ゴルフ振興協会広報メディア委員、夏泊ゴルフリンクス理事を務める。

ゴルフは4メジャーのほか、ワールドカップなど取材、全英オープンは1975年から取材し日本人記者のパイオニア的存在。青木功のハワイアンオープン優勝にも立ち会った。1939年生まれ。東京都出身、立大出。

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