今年の全米オープンは米のダスティン・ジョンソン(31)が4アンダーで優勝した。だが、最終日の5番グリーンでパットする前に、素振りを繰り返すときに球が動き1罰打が付いた。だが、それが発覚したのはそのシーンをテレビが写し出し、それを見た視聴者がUSGAの競技委員会への通報でわかった。そのためその場ではペナルティーはつかず、ホールアウト後に改めて協議、事情を確認して1罰打となった経緯があった。
しかし、ここでお断りしなくてはならないのは、ボールが動いていたという事実とそのことが確認されるまでに約1時間半の時間が経過していたということだ。
実は、ジョンソンは問題の5番をパーでおさめたあとレフェリーから事情説明を受けていた。スマホを見るなど今の時代、情報は素早い。「今、球が動いたように見えた」と、騒然となった直後、ジョンソンの組のレフェリーはそうした疑義に鋭く反応した。問題があれば、その場で裁定するのがレフェリーの役割、当然の措置だった。そこでジョンソンに聞くと、ジョンソンは「素振りをしたが、それで球が動いたという事実はない。ましてアドレスをしたという事実などありません」と説明した。その結果、ペナルティーはつかなかった。
ところが、USGAはその後、12番ティーグラウンドでジョンソンを呼び、「先の5番の裁定だがいろいろと問題がでている。ホールアウト後に改めて協議を行うことにする」と継続審議であることを伝えた。朝令暮改ならぬ5番ホールの裁定は12番で覆ったのである。テレビ視聴者の疑問には答えなければならない。おそらくテレビ局には何百回、いや全米オープンだ、何千通以上の問い合わせの電話があったはず、無視できないのだ。そして ホールアウト後、ジョンソンには5番のスコア4に、アドレスをした後、ボールを動かした罰により1打罰のボギーの5が付いたのだった。
素振りの際、アドレスしていることがUSGAの映像確認で見つかった。あってはならないことが起こったのだ。ホールアウト後にジョンソンもその映像を確認した。ホールアウト時点で5アンダーだった通算スコアは4アンダーとなった。2位に3打差のメジャー初優勝を飾ったジョンソン。だが、5番で無罰だったものが映像で覆ったのである。視聴者からの“告発”で裁定が覆ったりする、こうしたことは過去にも何例もある。もはや今の時代、視聴者はすべて競技委員と化しているといわれるほどだ。怪しい動きは見逃すものか。アラさがしがテレビ観戦の楽しみ、という輩もいるほどである。
だが、ここで問題となることは2つ。一つは、そのことが12番で選手に伝えられたことだ。優勝争いの真っただ中でジョンソンの受けたショックは想像以上だ。ジョンソンにとっては5番でレフェリーと話をし、解決済み。問題なしとクリアになったはずのことが2時間近くたってから“あれはなかった”と言われたのである。
プレッシャーの中、ジョンソンの精神的な重圧を考えると今回の措置には疑問が残る。
そして残るのはルールである。5番のプレーが、プレーヤーがボールを動かした規則18条の2の違反なら1打罰。そして動いた球は元の位置に戻してプレーしなければならなかった。だが、球は動かなかったと裁定したばかりに、そのままプレーしたから誤所からのプレーの罰は2打である。つまり、計3打罰だ。
USGAの発表は6月21日、日本時間22日に行われた。
「5番のグリーンのパットの前、球の前で何度も素振りをし、ソールをしたとき球が動いていたことを確認した。本人にその意識はなかったとしてもグリーンは平地で、アドレスをしたために球は動いたことは明らかで1打罰である。残念だったのはその変更を12番で選手に知らせた配慮のなさで誠に残念なことだった。選手に対しては申し訳なく反省している。」競技委員会の内容の要旨である。ジョンソンは5番を3打罰なら優勝することはできなかったかも知れない。今回は5番でレフェリーの支持に従い処置したので誤所からのプレーは不問となった。
ボールが動いたか動かないか。現場では見えないことが、大写しのテレビ映像が生き生きと映し出すのが現代のゴルフの世界。ゴルフ界屈指のパワーヒッター、ジョンソンが、80センチのショートパットにおびえた第116回の全米オープンの顛末。それにしても誤所からのプレーを不問にしたあたりにUSGAのあたたかい配慮があった。忘れられない全米オープンとなった。