渋野日向子に女王のノルマを課す 武藤一彦のコラム


 「次の目標は賞金女王になることです」-8月の全英女子オープンに優勝、世界一となった渋野日向子(20)が9月22日、「デサントレディース東海クラシックで国内3勝目を挙げマネークイーンを目標に掲げた。愛知・新南愛知CC美浜コース(6,437ヤード、パー72)の最終日、首位と8打差の20位から出た渋野は8バーディーの猛チャージ。今季の国内賞金を1億643万円とし首位を走る申ジエ(韓国)に約1000万円差、ついに賞金女王を視野に入れた。

 

 4番パー3で8メートルのバーディーパットを決めた。5番パー5の3打目を“オーケー”につけ、6番、2メートル半を入れ3連続バーディー。9番、50センチ、10番5メートルと連続バーディー。だが、まだ3打差6位。しかし、12番で3メートルを入れると状況は変わった。風が吹き始め首位争いの申ジエ、テレサ・ルー(台湾)のショットが曲がり始める。渋野は15番、1メートルを入れるバーディー、そして16番パー3だ。グリーン左に外した後のアプローチをチップインバーディーでついに単独トップへ躍り出た。
 最終組から1時間10分も前、早いスタートが幸運を呼んだ。微風、薄曇り。グリーンは荒れていない。アプローチが冴え、パットは面白いように決まった。プレッシャーのかかった後続組のスコアは伸びなかった。

 

 全英オープンで見せた思い切りの良いショットとアプローチとパットの小技は、あの宮里藍をほうふつとさせた。
 両腕を一本に使った両脇のよくしまったスイングアークは安心してみていられた。長身の渋野は宮里と比べれば前傾が深いが、両腕をリラックス、しっかり伸ばしたままアドレスからフィニッシュ直前まで見事に両腕を一本に使って見事だ。渋野はサル腕で両手は常に一本に使う。宮里は小柄を大きく使うため両手を伸ばす必要があった。スイングアークをシャープに、あくまで大きく、緊張するほど曲がらないスイングを目指すとき、ともに同じ動きを追求するのだろう。2人は本当によく似ている。
 そしてパットにも驚きの共通項がある。両肘を曲げて構え肩と両腕の作る五角形のアドレスである。ショットではしっかり伸ばして使う腕だが、パットではひじを張ってふところを作り、両肘を曲げたまま球を送り出して行く。世界ランク元1位の宮里の強さはアプローチとパットに象徴された。中でもパットのうまさ、したたかさは世界の驚き。定評があった。全英の最終日、渋野のウイニングパットを「あの状況であそこまでしっかり打って入れるか!」と感嘆させたワザは、実は宮里が06年から世界に飛び出していったあと、世界中を圧倒したものであった。渋野のこの先を期待するとき、これはうれしい共通点である。

 

 「次の目標は賞金女王になることです」と渋野の目指すところがここにきてはっきりした。そう、韓国勢に押されっぱなしの日本勢には、いまこそ渋野が必要な時。全英での優勝賞金67万5000ドル、日本円で約7200万円は日本の賞金ランキングには加算されない。シーズンあと10戦。シンデレラには玉座であの笑顔を期待する。
 実は宮里だが、信じられないことだが、賞金女王になったことがない。国内14勝、海外9勝をあげながら女王の座にはついにつけなかった。歴史はありのままを顕示するが、あきらめきれない感情にさいなまれ少し打ちひしがれている。

 

武藤 一彦(むとう・かずひこ)
ゴルフジャーナリスト。コラムニスト、テレビ解説者。報知新聞には1964年入社、運動部に所属、東京オリンピックはじめボクシング、ゴルフ、陸上担当。編集委員、専属評論家も務めた、入社以来50年、原稿掲載の”記録”を現在、更新中。
日本ゴルフ協会広報参与、日本プロゴルフ協会理事を経て日本プロゴルフ殿堂表彰選考委員、日本ゴルフ振興協会広報メディア委員、夏泊ゴルフリンクス理事を務める。

ゴルフは4メジャーのほか、ワールドカップなど取材、全英オープンは1975年から取材し日本人記者のパイオニア的存在。青木功のハワイアンオープン優勝にも立ち会った。1939年生まれ。東京都出身、立大出。

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