散り方も悪くなかった。渋野日向子の全英女子オープン 武藤一彦のコラム


 女子ゴルフの今季メジャー初戦、AIG全英女子オープンは24日、英イングランドのロイヤルトルーンGC(36,35-パー71)で最終ラウンドを行い、前日首位のソフィー・ポポフ(独)が7アンダーで逃げ切った。日本勢は大会10回目出場の上田桃子(34)が4バーディーとスコアを伸ばし通算1オーバーパー、6位と健闘した。野村春京は22位、畑岡奈紗は大会3回目で初予選通過、64位に入った。
 昨年、初出場でウオーバーンの大会で優勝した“スマイリングシンデレラ”渋野日向子(21)は予選ラウンドを12オーバーと振るわず、予選落ちした。

 

 昨年の鮮やかな勝ちっぷりがウソのような渋野の乱調に目を疑った。第1日、ボギースタートした渋野が、5番でバンカーにつかまり脱出に3打もかかる、まさかのトリプルボギー。第2日も立ち直れず12オーバーの予選落ち。渋野は「20メートルの強風になす術もなかった。しっかり振ろうと思うほどに振ることができず迷いが出てあせった。悔しいがこれが現実。成長して、自信をもってリベンジしたい」と前を向くのが精いっぱいだった。

 

 前週のスコットランドオープンに次いで2週連続の予選落ち。風、硬さ、ポットバンカー、フェスキューのラフとすべてに対応できなかった。
 コロナ禍で試合が減り実戦の勘が失われ、ゴルフ特有のフィーリングという感覚も鈍っていたのだろう。さらなる成長を目指しウエートトレでパワーアップ、高弾道のショットを磨き海外に備えたが、いかんせん、実戦が不足していた。
 やってみないとわからないリンクスでの体験も初体験だった。トルーンは男子の全英オープンを9回開催したスコットランド屈指の難コース。英国では海岸地帯の荒れ地をリンクスと呼びパブリックエリアとして乗馬やゴルフコースに利用。近代ゴルフは、セントアンドリュースなどのリンクスで行うのが伝統となっている。昨年の渋野が優勝したウオーバーンズGCはインランド(内陸)の林間コースだった。
 青木翔コーチをキャディーに帯同したが、現地キャディーの調達も視野に入れた方が良かったかもしれない。アマで全英オープン、全英アマを制し全米オープン、全米アマと合わせてグランドスラムを達成した米のアマ、ボビー・ジョーンズも、全英オープン2回優勝の米伝説の名手、ジーン・サラゼンも地元キャディーとのコンビが偉業につながった。習うより慣れ、だ。風の通り道が見え、攻略ラインを熟知したキャディーはプロアマ問わず、タフなコースでは最高の味方となってくれる。
 畑岡は英3年目にして今回初めて予選突破した。ベテランの上田は28回目の世界メジャー参戦で08年大会7位を上回る6位。実に12年ぶり、自己のメジャーのベストパフォーマンスを見せた。メジャー初戦で世界中を笑顔にした渋野の暗転ドラマだったが、悪びれず、困った顔も、言動もチャーミングで安心した。これもゴルフだ。めげずに頑張ってほしい。

 

武藤 一彦(むとう・かずひこ)
ゴルフジャーナリスト。コラムニスト、テレビ解説者。報知新聞には1964年入社、運動部に所属、東京オリンピックはじめボクシング、ゴルフ、陸上担当。編集委員、専属評論家も務めた、入社以来50年、原稿掲載の”記録”を現在、更新中。
日本ゴルフ協会広報参与、日本プロゴルフ協会理事を経て日本プロゴルフ殿堂表彰選考委員、日本ゴルフ振興協会広報メディア委員、夏泊ゴルフリンクス理事を務める。

ゴルフは4メジャーのほか、ワールドカップなど取材、全英オープンは1975年から取材し日本人記者のパイオニア的存在。青木功のハワイアンオープン優勝にも立ち会った。1939年生まれ。東京都出身、立大出。

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