笹生、畑岡、日本ツアーの若手がプレーオフで争い、笹生が全米女子オープン制覇 武藤一彦のコラム


 日本女子ツアーを代表する若手二人が争う全米女子オープンのプレーオフ。信じられない光景が展開した。
 最終日、前半を終わって183センチの長身、強打のレキシー・トンプソン(米)が9アンダーとスコアを伸ばし一人、野を往く勢い。同じ最終組の2位、笹生優花は2、3番を連続ダブルボギーと大きく後退、6位スタートの畑岡奈紗も6番をダブルボギー、その差は6打から7打と開いて日本の2人の優勝チャンスは大きく遠のいたかに見えた。だが、11番でトンプソンは5年ぶりの米選手の大会優勝を意識したのか、突然の乱調、ラフを渡り歩き4オン2パット。ここでのダブルボギーが戦線を変えた。14番ボギー、17、18番もボギー。41を叩きプレーオフへも進めなかった。
 笹生、畑岡のプレーオフ。9、18番、2ホールを使ったストロークプレーオフは共に譲らずパー。9番からサドンデスとなった、その第1ホール、笹生が2.5メートルの上りのパットを入れ決着をつけた。2018年の世界ジュニア選手権でも2人はプレーオフで争い、その時も笹生が勝っている。

 

 この日の全米オープンの優勝は19歳11か月17日目で、インビー朴(韓国)の持つ大会最年少優勝記録とぴったりタイ、“奇跡の記録“となった。

 

 優勝決定の瞬間、関係者がシャンペンを笹生に振りかけた。が、素早く身をかわした。未成年者にアルコールはご法度、口にでも入ったら?とハッとした。
 「2、3番とダブルボギーを連発したときキャディー(ライオネルさん)に、これからだ、しっかりやるんだ、といわれ頑張った。ここにいられる幸せを振り返り、その後のプレーにつなげられた。優勝は家族のおかげ・・」といったところで涙にむせんだ。大きな目から大粒の涙がとめどなくでた。表彰式終了後は、父・正和さんと金メダルを下げトロフィーを掲げ、何枚も写真に収めた。

 

 今大会は母の出身地フィリピンからの参戦。2重国籍を持ち五輪もフィリピン代表として出場するが、日本人としては1977年の樋口久子の全米プロ、2019年渋野日向子の全英オープンに次いで3人目の快挙だ。
 18年の全米プロに次いでメジャー2回にわたって2位の畑岡があって、日本女子ツアー史上初、日本選手による史上初のプレーオフ。最終日のゴルフは畑岡の方がはるかにいいゴルフをしていたとみているが、どうだろう。いずれ栄光はその手に渡ると確信した。2人はゴルフ史上に輝くいいものを見せてくれた。

 

武藤 一彦(むとう・かずひこ)
ゴルフジャーナリスト。コラムニスト、テレビ解説者。報知新聞には1964年入社、運動部に所属、東京オリンピックはじめボクシング、ゴルフ、陸上担当。編集委員、専属評論家も務めた、入社以来50年、原稿掲載の”記録”を現在、更新中。
日本ゴルフ協会広報参与、日本プロゴルフ協会理事を経て日本プロゴルフ殿堂表彰選考委員、日本ゴルフ振興協会広報メディア委員、夏泊ゴルフリンクス理事を務める。

ゴルフは4メジャーのほか、ワールドカップなど取材、全英オープンは1975年から取材し日本人記者のパイオニア的存在。青木功のハワイアンオープン優勝にも立ち会った。1939年生まれ。東京都出身、立大出。

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