若さもない、パワーもない。キャリアと気力と意地と我慢の勝負だった。宮里藍の今季女子プロメジャー「ANAインスピレーション」は18位。第3ラウンドで首位と2打差の5位、もしかしたらメジャー初制覇の期待もあった宮里だったが、夢と終わった。
今季女子プロのメジャー第1戦、ナビスコ・ダイナショア、いや昨年から日本の全日空が冠スポンサーとなった女子プロメジャー競技のANAインスピレーションは、30歳の宮里が初日、2日とトップに立ち3日目も首位から2打差と久しぶりの存在感。もしかしたら優勝か、と淡い期待を抱かせたが、最終日はついに何も起こらなかった。
優勝争いは世界ランクトップのリディア・コ(ニュージーランド)、ジュタニガーン(タイ)、インジー・チョン(韓国)の激戦へ。だが、最後は最終ロングホールで設妙のウエッジショットからバーディーを決めたリディア・コが12アンダー、2位から逆転で優勝した。前週のKIAクラシックに次いで2週連続、通算12勝、昨年の「エビアンマスターズ」に次いで2つ目のメジャータイトルを獲得した。
300ヤードのドライバーショットを見せた前日首位レキシー・トンプソン(米)の逃げ切り濃厚に見えた展開は前半を終えると、藍ちゃんへの”もしかしたら、もしかする?“との日本の期待と一緒にあっさりどこかで吹っ飛んでいった。
世界の女子ゴルフはパワーだけではだめ、まして熟練度の“出どころ”などお呼びでないエンターテイナーの世界のようなもの、ゴルフ14年の藍ちゃんの米ツアー9勝も、若い力に圧倒されてしまった。
繰り返すが18歳のコ、19歳のチョン。そして20歳、まだタイの選手は一回もLPGAツアーで勝ったことがないなんて、どこの国のはなしか、といった大柄、パワーヒッターのジュタニガーンが、まるでシニア選手権の雰囲気の中、ガンガン競り合うと、トンプソンも藍ちゃんも全く存在感をなくしてしまったのだ。
じゃあ全くの新人が?という向きには、そんなスピードで女子ゴルフを眺めていたら理解できない。今やもう新人という言葉は女子ゴルフにはない。コはアマ時代、16歳のときカナディアンオープンに優勝、プロ入りして大会2連勝、まだ3年目だ。2位に何気なく入ったチョンは、昨年、韓国ツアー賞金女王は渡米すると全米オープンに勝ち秋に来日、日本女子オープンを制した。韓国オープンでも勝っているから昨シーズンは日米韓のナショナルオープンをすべて制覇の偉業だ。韓国は選手が多くカタカナ表示名とプレーヤーが一致せず苦労するが、チョンは漢字表記で田、日本でのプレーヤーズネームは田仁智と聞けば“あーそうか”とうなずける。身長も170センチを超え大柄でパワーもある。リオデジャネイロ五輪出場枠争いが激戦の韓国だが、代表にまちがいなく入ってくるだろう。
宮里はサバサバしていた。「風もグリーンも読めず私には難しかった」欲を捨て今の自分とむきあうゴルフを目指した。長いスランプ、あれこれ試行錯誤する中、ないものねだりをしすぎた。そんな反省から開き直った。
6700ヤードを越える長いコースは飛距離的にきつく寄せワンに徹した。開催コース、ミッションヒルズコースは、過去に全くと言ってもいいほど戦績は残せていない。「いいスタートを切ればこうして戦えるとわかったことが収穫。あと半年あるシーズンを、やっていくうえで自信となった1週間だった」と明るかった。ドライバーの飛距離240ヤード弱、155センチ、50キロ強と世界で最も小柄だ。今大会、改めてマイゴルフを見つめ直したことだろう。収穫はあったはずだ。魔術かと思わせるアプローチ、グリーンの読みとタッチのフィーリング。“藍ゴルフ”は確実に戻った。
時代は変わった、と今回、若者に花をもたせるしかなかった。生きる道、行き方を探した大会だった。明るさはそれらを見つけたことがもたらした、とみる。風ひと吹きでコンデションが変わるゴルフである。芝一本でパットのラインが変化するコースは千変万化となる。あと半年の間に、必ずチャンスが訪れるはずだ。