英・イングランドのロイヤルバークデールGCで行われた第146回の「全英オープン」はアメリカの23歳、ジョーダン・スピースが12アンダー、2位のマット・クーチャーとの激戦を制し初優勝を飾った。4メジャーは15年にマスターズ、全米オープンを制しいま全英と3大会制覇、残る8月の全米プロを勝てば生涯グランドスラマーの偉業だ。世界ランク2位、日人初のメジャータイトルが期待された松山英樹(25)は首位スピースから7打差ながら5位の好位置から逆転をめざすも、1番でトリプルボギーをたたき14位に終わった。
1番、松山のスプーンでのティーショットは右に飛びブッシュを越えOB。恐れていた痛恨のミス。3日間アイアンで手堅く刻む”石橋たたき作戦“の変更は取り返しのつかないトリプルボギー。最終日、パー70のコースを2オーバー72は優勝を争うトップ15人の中では、77をたたいた世界ランク1位のダスティン・ジョンソンに次ぐ”ワーストスコア“だった。「1番がすべてだった、どうしてこうなったか今はなにもわからない」茫然と空を見つめるのだった。
優勝争いは23歳と39歳のアメリカの若手とベテランに終始した。スピースが1,3,4番をボギー、と信じられない乱れを見せるとクーチャーが追いつき骨太なツアー王国の担い手が渡り合って、手に汗握るマッチレース。スピースの乱調は後半も尾を引き12番では得意のパットで80センチを外すミスが飛び出しクーチャーが1打、逆転した。
だが、スピースの信じられない復活劇の始まりは直後の13番だった。
ショットを右へ曲げブッシュの中、アンプレアブルを宣言、1ペナでドロップしたのが練習場だった。500ヤード近くある13番の長いパー4、3打目はグリーンまで250ヤードを残す大ピンチだったが、トーナメント王国アメリカの若手ナンバーワンには格好のシチュエーションだったのだ。その3打目をグリーン手前に運ぶ高々と240ヤード飛ばすと、3メートルのボギーパットをねじ込んだ。会心のボギーと呼ぼう、それほど価値のある復活のホールとなったのだった。
スピースは生き返った。14番1メートル半を沈めるバーディーパットを沈め、機を取り直した直後の15番、この日始めて迎えたパー5、グリーン左端に乗せると、15メートルはあろうという超ロングパットをど真ん中から沈めて見せる、ボールは大海原をほんろうされる帆船のように、しかし、目指す港を逃さなかった。起死回生のイーグル。前半の不調がウソのように消えた。マスターズ、全米オープンを連勝した2015年のスピースがさらにたくましさを増してかえってきた。
「13番は練習場にドロップできるのか、と競技委員に聞くと問題ないと言われた。あの後、3メートルのボギーパットを前にしてはいらなかったら5オーバーか、といやな思がよぎった」優勝を決めた公式会見だ。バークデールは全英伝統の18ホールを行って帰る「ゴーイングアウト、カミングイン方式」ではない唯一のコース。例年なら芝を刈りこんだ平らなエリアなどなかったところに格好の“ドロップエリア”が用意されていた。偶然が生んだスピースのラッキーだ。今後語り継がれることだろう。「キディーのグレラーはボギーで上がったときこれで俺たちの流れは変わったぞ、あのあといった。僕も心底そう思った」とスピース。神の啓示だったのかもしれない。
「15番のイーグルは入る、入らないの問題ではない。入ったからすごいことなんだ。あれがはいったあと、自分の球は最期まで自分で責任を持つのがゴルフだが、キャディーに“その球を拾ってよ”と僕は言った。自分の信条に反するが、この試合に勝つのなら何か思い出に残ることをしておきたかった」
興奮のなかでスピースは冷静だった。
球を拾わせることで、その幸せ、興奮、喜びをともに戦うキャディーと共有したい、と考えるスピースがいた。そこまで考える23歳を今年の全英はまざまざとみせくれた。
ロイヤルバークデイルは61年のパーマーをはじめ71年トレビノ、76年ジョニー・ミラー、さらに83年トム・ワトソンと当たり前のようにスターたちが米国勢の強さを誇示した。だが、きら星のように並ぶアメリカ勢の中で今年ほどの感動を世界に見せたつけたのは、スピースをおいてない。スピースはアメリカ人プレーヤーの語り草となった。