2015シーズン最終戦の「ゴルフ日本シリーズJTカップ」は昨年グリーンを改造して、2年目を迎えた東京よみうりカントリークラブ(7023ヤード、パー70)で行われた。日本を代表する名匠・井上誠一設計のクラシックコースはその表情を大きく変貌させていた。
名物18番ホールの高速グリーンで知られる東京よみうりカントリークラブだが、基本設計図に沿った改造を施すと全ホール、傾斜が強く浮き上がりアンジュレーションが際立ち、葉先が小さく密度の濃い芝は短いカットに耐えた。必然的にショートカットされると、スティンプメーターは13フィートと、かつてない速さとなった。そのスピードはすべてのホールに際立った。長い間に沈殿した砂をならし、風雪に削り取られた部分を補修する基本図通りの改造はコースを生き返らせた。
石川の“ぶっちぎり優勝”となった今シリーズ。過去7回で3位が最高という石川にとっては苦手意識を払拭する記念すべき大会となった。米ツアーで苦戦した今季、タフな世界の経験は生きたのだ。初のメジャータイトル獲得にコース改造はプラスに働いた。
初日68で片山から遅れること4打差9位。2日目は終日強風の中、60台は二人だけというタフな条件の中、68で首位タイにあがると、勝負の第3ラウンドを7アンダー63のベストスコアで2位の小田に5ストロークの単独首位に躍り出たのだ。そして、最終日は1番で2メートルのバーディーチャンスを3パットにしながら6バーディー、3ボギーの67、藤本がベストスコア64、武藤が64と追い上げたが、はるか後方からの追走に、危なげなく逃げ切った。
苦手コース克服。その予兆は練習日に見られた。「グリーンが早い。傾斜が強いのでピンポジション次第ですごく難しいピンポジションなりそう」と警戒した。「長いパットが残るからロングパットが大事。ロングパットでリズムを作りたいです」と言った。グリーンをしっかり読み切りメリハリをつけながら守るところは守り、狙えるところは、あわよくば長いのを入れる。前週の「カシオワールドオープン」で2位に終わったが、「いい手ごたえを維持したい」と慎重な中にも前向き。石川の調子の良さを感じさせる心の内が覗けた。そして、 攻略について聞かれると首をかしげながら考え考え言っていた。「ショートアイアンで打ってもボールをカップ上に止めたら下りパットは難しいからダメ、手前に攻めたらスピンで戻り場合によるとグリーンから出て行ってしまう。それなら、アイアンは奥から攻め、スピンコントロールして止めるのが攻略としてはベストかもしれない」―このときコース攻略の基本理念は固まった。
後半2ラウンドの石川は前週のカシオから続く好調なドライバーショットとアイアンで危なげなかった。好調なロングドライブのあとの“ドライブ&ピッチ・ホール”では次々と奥からのバックスピンでピンを攻めたてた。その多くは奥に止まり高速のダウンスロープや横からの大きく曲がるラインに悩まされたが、そこは、米ツアーのトリッキーでタフなコースを潜り抜けた今季、驚くに値しなかったのだろう。しっかりとスコアにつなげた。
読解力と実践力の勝利と言っていいだろう。2009年、初めてマスターズに出場以来、メジャーの常連だったキャリアは2014年以降メジャーに3戦出場しただけ。15年の全米オープン出場がメジャーの最後の舞台だ。だが、どん底を知り自分のキャリア最多の米ツアー28戦を戦った15年は石川をたくましく変えていた。コースの読みと対応力に成長した姿が垣間見え、腹にずっしりと来る迫力があった。
東京よみうりの設計者、井上誠一は、夏の札幌の「ANAオープン」開催の札幌Gゴルフクラブ輪厚コースの設計者としても知られる。石川は15年夏、苦戦続きのアメリカから帰国すると「ANAオープン」で勝ち、そして今回、日本のメジャー「日本シリーズ」を勝った。
「メジャーの優勝が何を意味するのか、まだピンと来ない」日本よりもアメリカ。拠点が変わった今、その受け止め方に戸惑う石川である。それで良いのではないか。ゴルフは常に勝者は一人。しかし、日本が世界に誇る名匠・井上誠一が石川を生き返らせたことは偶然ではない。今回、新設なったコースを読み切った石川の復活である。そこに石川の成長を見るのである。すでに開幕した米ツアー、石川の来年のデビューは第2戦の「ソニーオープン・イン・ハワイ」(ワイアラエ・カントリークラブ)1月11日(日本時間では12日)からだ。生まれ変わった“ニュー-イシカワ”に期待は高まる。