迷える松山、リオ五輪辞退。「WGCブリヂストン招待」42位。もうメジャーはいい、オリンピック一本、金メダルをとるしかないと意気込んだが、五輪までキャンセルとは… 武藤のコラム


 米オハイオ州アクロンで行われた世界ゴルフ選手権シリーズの「ブリヂストン招待」最終日、松山英樹(24)=LEXUS=は4バーディー、1ボギーの3アンダー67とようやくアンダーパーも、出遅れがたたって通算9オーバー、42位に終わった。優勝は全米オープンでついにメジャー制覇したダスティン・ジョンソン(米)が2打差3位から66をマークし、通算6アンダーで逆転、2週連続のビッグタイトル獲得だ。ワールドランキングトップのジェイソン・デー(豪州)が2位に入りジョーダン・スピース(米)は3位。松山の不振だけが際立った。

 

 メモリアルトーナメント、全米オープンと2戦連続予選落ちの松山には、立て直しに絶好の場となるはずだった。メジャーと一線を画した世界選手権シリーズ、今週は予選落ちもなく、思う存分戦う、そんな期待は霧散した。

 

 第1ラウンドの乱調は目を疑った。松山は7ボギー、3ダブルボギー。バーディーはわずか2つの79。目を覆う惨状だった。最終日のこの日の67は3戦ぶりのアンダーパーでようやく松山らしさがのぞいたものの、この1か月半でラウンド数はわずか8ラウンドしか消化できていない。2週後の全英オープン、全米プロ、そしてリオ五輪に向けギアを上げるべき大事な時期だった。立ち遅れは明らか。先行き不安だ。

 

 「何がどうなっているのかわからない」ゴルフを始めて以来の最大のピンチ。「球が飛ばない。磨き上げたアプローチは寄らない、寄せてもパットが入らない」3年間で2勝をあげた実績は「メジャー優勝に向け、さらなる底上げとなるはず。周囲の期待に応えたい」とモチベーションも上がっていたのだが、思案に暮れる。今は、不調の原因探しにきゅうきゅうだ。

 

 と、ここまで書き進んでいるととんでもないニュースが飛び込んできた。松山がリオ五輪への出場を辞退した、というのだ。「松山選手は虫刺されに対して極度に強い反応が出やすい体質だ」とし「不安を抱えたままではベストなコンデションで臨めない。苦渋の決断」と読売新聞社がリオ辞退を報じた。松山は、以前ハチに刺されたことがあり、そのときはスイングもできずその後、完治するまで長期を要したことがある。このニュースは夕方のNHKニュースでも流れ、リオ辞退は決定的,とりわけゴルフ界にとってはバッドニュースとなった。残念だが、将来あるトッププロの決断である。あきらめるしかない。

 

 実は、出場を前提として解決策を練るべき時だ、という論調を展開した。こんな具合である。

 

 松山は目標を五輪に向けモチベーションを最優先すべきだ。そのために五輪までの全英オープン、全米プロ選手権の2メジャーは準備期間とする。メジャー制覇はお預けとし五輪への調整に徹するのだ。当面の目標は金メダルを取ることに絞る。

 

 こういうと人の夢をふみにじる無責任発言にきこえるが、メジャーと金メダルのどっちが必要か?といったら金メダルだ。メジャーは毎年あるが、五輪は4年に1回だ。メジャーは年に4回もあるが、五輪は4年に1回。ここのところをしっかり見極めれば松山の今後の道筋は見えてくる。まして今度のような非常事態だ。その方がいい―。

 

 ジカ熱もありリオへの熱が下降している。アイルランドのロリー・マキロイ、豪州のアダム・スコット、ジェイソン・デー。そしていま松山も、112年ぶり五輪種目復活のゴルフは相次ぐトッププロの辞退で大きな転換期を迎えた。その発展にストップがかからないことを祈るばかりだ。

 

 豊かなスポーツ環境を持つ国ほど五輪を軽視する傾向にある。ゴルフもサッカー、野球などプロスポーツの発展した国ほどその参加に消極的なのはその証明だろう。「俺たちには世界選手権というナンバーワン決定の場があるから五輪は必要ない」といった理由だ。だが、松山はそんな外部の事情に左右されてはならない。五輪はスポーツの祭典。ゴルフを知らない人でも五輪の金メダリストは多くの人々から称賛を受ける。ゴルフの日本での歴史はたかだか100年でしかない。ゴルフで松山が金メダルを取ればゴルフが、スポーツ界が、そして時代が変わる、いや、日本のスポーツ界が変わるはずだった。松山は金メダルを取った後にメジャー制覇にまい進しろ。そんな意気込みに期待したが、ジカ熱不安による身体的、精神的理由だったとは…。松山は五輪に焦点を合わせ、ゴルフの調子を立て直し、金メダルを獲得することこそゴルフの、そして次期開催国・日本の義務と意気込んだが、悔しい結末となった。本当に残念だ。

武藤 一彦(むとう・かずひこ)
ゴルフジャーナリスト。コラムニスト、テレビ解説者。報知新聞には1964年入社、運動部に所属、東京オリンピックはじめボクシング、ゴルフ、陸上担当。編集委員、専属評論家も務めた、入社以来50年、原稿掲載の”記録”を現在、更新中。
日本ゴルフ協会広報参与、日本プロゴルフ協会理事を経て日本プロゴルフ殿堂表彰選考委員、日本ゴルフ振興協会広報メディア委員、夏泊ゴルフリンクス理事を務める。

ゴルフは4メジャーのほか、ワールドカップなど取材、全英オープンは1975年から取材し日本人記者のパイオニア的存在。青木功のハワイアンオープン優勝にも立ち会った。1939年生まれ。東京都出身、立大出。

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