日本のゴルフ界は五輪に参加する資格があるのだろうか 武藤のコラム


 五輪にゴルフは本当に必要なのか。そんな問いかけをすることになったことに戸惑いを隠せない。オリンピックまであと1か月。11日、全米女子オープンが終わり各国の五輪代表が決まる。112年ぶりの五輪種目復活に沸くゴルフだが、リオに向けて出場辞退する選手が引きも切らず、思わぬ方向へと興味が分散している。日本でも松山英樹、谷原秀人が五輪出場を辞退、ゴルフ界の動揺は隠せない。五輪種目になることは、そのスポーツにとっては、ワールドスポーツとして認知され、その発展が約束されることなのだが、辞退が相次ぎ、その伝統も誇りも揺らいでいる。
 ゴルフは一体どこにいくのか?そんな問いかけをしつつ、現状を見極め、将来を占う。するとゴルフは五輪に必要ないのではないか。そんな極論も出てくるのである。

 7月9日の北海道クラシックゴルフクラブでの「日本プロ選手権・日清カップヌードル杯」で石川遼は予選落ちした。腰痛で5か月のブランクを経ての復帰戦は期待と不安が交錯する中、石川は予選を突破できなかった。ショックだった。調整不足とはいえ、その実績、取り組み、キャリアにおいてそんなことが起こるとは想像もしていなかった。

 15歳の高校生、石川がプロトーナメントに参加すると並み居るプロをなぎ倒し優勝したのが2007年。石川はすぐプロ転向し09年、18歳で史上最年少の賞金王に。10年の「中日クラウンズ」の最終日に世界ツアー史上最少となる58で世界中をうならせた。ワンラウンドを14アンダー!、マスターズから招待状が舞い込み夢の世界デビューを果たし、米ツアー選手としてシード権を維持しながら日本で13勝を挙げた。しかし、昨年の日本ツアー最終戦のゴルフ日本シリーズでの優勝を最後に表舞台から姿を消した。腰痛を悪化させ、やむなく治療に専念。ようやく復帰戦にこぎつけたがうまくいかなかった。

 松山とは同学年の24歳。若い二人の存在は日本のゴルフ界の光明だった。二人は。常に対比されるライバルとなった。二人の関係は“早すぎた男”と“遅れてやってきた男”と考えるとわかりやすい。石川の存在にびっくりしたように目覚めた松山が世界の舞台で実績を上げた。日本にとってはダブルで生まれたスーパースターの卵たち。その競り合いは始まったばかりだ。周辺の空気も変える運気を運んだ。リオオリンピックでゴルフ競技復活、その4年後の東京五輪開催と二人は朗報を引き寄せた。リオでは二人そろってメダルを目指す。そんな筋書きに誰もが明るく反応した。

 それが石川の故障、松山の辞退、である。どうしてこうなったのか。日本にとっては最も悲劇的な結末だ。いま、日本のゴルフ界はそのことで、方向を見失っている。繰り返すが、松山と石川の二人は、そろって五輪代表となって活躍するはずだった。それが二人とも出場できない、という事実だけが残ったのである。そこに深い絶望感がにじむ。そしてそのことによる問題点が列挙されるに及んで問題はこじれるのである。

 松山はジカ熱、あるいはテロを理由に出場を辞退したように言われるが、松山にとっては“メジャーという最大の目標がありそこを目指すなかで五輪は重要ではない”というのが、真意であった。しかし、このことは、2020年の東京五輪・パラリンピック大会にも尾を引くだろう。それがこわい。過酷な日程も辞退の理由だとすれば、東京大会でも同じ理由でその時のトップ選手が五輪に出場しない、そんな事態は解決しないままに残る。選手の意識改革だけでなく関連団体がもっと積極的に五輪強化に取り組む姿勢、意欲がほしい。

 今のゴルフ界のシステム、構造がかわらず、日本の五輪への意識が現状のままなら、リオから東京へ開催都市は変わっても何も解決しない。そのまま持ち越されれば同じことが繰り返される。それを懸念する。

 ゴルフに対する偏見や悪いイメージを払拭しようと娯楽施設利用税の撤廃などを推し進めるゴルフ関連団体や政財界の関係者が集う「全日本ゴルフ振興会議」が、この4月に発足した。日本ではゴルファーがプレーするたびに徴収されるのが娯楽施設利用税である。会議はその撤廃を求めて2020年の東京五輪までにムーブメントを起こし日本のゴルフを盛り上げ、東京五輪の成功に導こうとしている。プレーするたびに税金を納める国は日本を置いてない。
 国家公務員倫理規定に明記されるゴルフの禁止規定は、“遅れた国・日本”、が抱える問題点だ。役人の倫理規定にはっきり、ゴルフプレーを禁じる項目が明記してあるのを外国からやってくる五輪関係者が見たらなんというだろう。2020年、東京五輪までに解決すべくムーブメントは日本のスポーツ文化の曖昧さを見直し変革する重要な役割を担っているのだ。4年に一回の祭典である五輪は世界の視野で洗いなおす良い機会でもある。是非、そうした運動を盛り立てたい。いまのピンチを立てなおす強い決意と取り組み、ゴルフ界は身を糺(ただ)しカツを入れなければならない。

 男子に比べ女子の意識は高く好感が持てた。同じ週に米女子ツアーは「全米女子オープン」が開かれた。日本は大山志保、宮里美香、渡辺彩香が五輪出場をかけて代表権を争い。今季開幕から五輪代表になることを口にし、取り組む姿は新鮮だった。中でも渡辺彩香が最後の一枠を目指し、全米女子オープンに勇躍出場、今回38位と健闘すると、大山、宮里美香を成績で上回り4番手から2番手へ迫る勢い。ただし代表権を獲得するかどうかは12日深夜、正式なワールドランキングが算出され決定後の発表した時点でないとわからない。いずれこの3人のうちの一人が、ワールドランキング日本1位の野村敏京とコンビを組むことになるわけだが、五輪とは、そうした夢を実現するための夢舞台。誰が出ても日本の代表として相応しい。

 最期に石川に期待したいのは東京五輪の代表権である。日本プロはそのスタートと受け止めている。2020年、円熟の年を迎えた28歳がどんなゴルフを見せるのか。4年間かけじっくり、松山と二人、世界を舞台に激しく競り合って達成してほしい。楽しみである。

 
武藤 一彦(むとう・かずひこ)
ゴルフジャーナリスト。コラムニスト、テレビ解説者。報知新聞には1964年入社、運動部に所属、東京オリンピックはじめボクシング、ゴルフ、陸上担当。編集委員、専属評論家も務めた、入社以来50年、原稿掲載の”記録”を現在、更新中。
日本ゴルフ協会広報参与、日本プロゴルフ協会理事を経て日本プロゴルフ殿堂表彰選考委員、日本ゴルフ振興協会広報メディア委員、夏泊ゴルフリンクス理事を務める。

ゴルフは4メジャーのほか、ワールドカップなど取材、全英オープンは1975年から取材し日本人記者のパイオニア的存在。青木功のハワイアンオープン優勝にも立ち会った。1939年生まれ。東京都出身、立大出。

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