予選落ち悲話 タイガー、松山、石川遼 武藤のコラム


 米ツアー「ファーマーズ・インシュアランス・オープン」は米ツアーの今後に暗い影を投げかけた。タイガー・ウッズが第1ラウンドの途中、12ホール目で腰痛のため棄権した。

 前週の「フェニックスオープン」では昨年8月以来、8か月ぶりにツアー復帰。最下位での予選落ちで心配されたが、「大丈夫。試合勘がなくなっただけ、試合に出ながら徐々に調子を上げていくメドが立った」と前向きだった。しかし、勘を取り戻すどころか、古傷の腰痛が再発。カップインしたボールやティーを自分で拾えず、同組の選手に拾ってもらうなど“重症”を露呈した。大会は2コースを使った特殊な設定の上、霧でスタート時間が遅れるなど進行が狂い、復帰を目指すタイガーには集中できない条件がそろっていたのは気の毒だった。だが、この2週間の姿からは往年のタイガーらしさを微塵も見られなかった。フェニックスでは82もたたくプロ最悪スコアで最下位。このときはだれもが“これがタイガー?嘘だろう”“嘘であってほしい”と目を覆った。今回は電動カートで運ばれる痛々しい途中棄権に、事の重大さを誰もが認めざるを得なかった。しかし、最悪の事態を知ったのはタイガー自身であろうことは疑う余地もない。

 今回の復帰で、目指すは4月のマスターズ優勝だったことは間違いない。39歳の今季は30代最後のシーズン。メジャー初戦のマスターズは4 回の優勝をあげた得意の大会。健在をアピールするかっこうの舞台だが、その出場すら危ぶまれている。

 そんな折、タイガーの腰を折る悲報が入ったのは2月3日のことだった。1961年、黒人選手として米ツアーに初参戦したチャーリー・シフォード氏が死亡した。92歳。キャディーから身を起こし、白人のみとする米ツアーの条項を撤廃させた。1961年、PGAメンバーとなり67年に初勝利した。タイガーはプロ転向2年目でマスターズに勝つと人種差別と闘い後進への道をつけたシフォード氏の名前をあげその功績を讃え「もっとも尊敬する人物、人生の師である」と傾倒していた。心身ともにさいなまれたタイガーに、いまこそあの強靭な精神力が求められる時だ。

 松山、石川、そしてミケルソンも予選落ちした。幸い、3人に共通するコメントがある。「ショットは悪くない。スコアが悪いだけだ」。日本勢は1週間休んで再始動してくる。良いプレーへ向けて再調整に期待したい。

武藤 一彦(むとう・かずひこ)
ゴルフジャーナリスト。コラムニスト、テレビ解説者。報知新聞には1964年入社、運動部に所属、東京オリンピックはじめボクシング、ゴルフ、陸上担当。編集委員、専属評論家も務めた、入社以来50年、原稿掲載の”記録”を現在、更新中。
日本ゴルフ協会広報参与、日本プロゴルフ協会理事を経て日本プロゴルフ殿堂表彰選考委員、日本ゴルフ振興協会広報メディア委員、夏泊ゴルフリンクス理事を務める。

ゴルフは4メジャーのほか、ワールドカップなど取材、全英オープンは1975年から取材し日本人記者のパイオニア的存在。青木功のハワイアンオープン優勝にも立ち会った。1939年生まれ。東京都出身、立大出。

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